犬を飼う前に

犬を飼うとは、犬の命に責任を持つということ。
「命」とは?ペットとは?犬と暮らす前に知っておくべき大切なこと、それは…

ある日、本屋に寄り、本を眺めていたら一匹の犬と目が合いました。
それは、堅固そうな檻の中に入れられている様子の犬の写真でした。
本の表紙に大きく載せられているその姿は耳がたれていて少し寂しそうな感じがします。
本のタイトルは「犬たちをおくる日」(今西 乃子・著 浜田 一男・写真)。
ノンフィクションの作品です。

序文にはこう書かれています。
2009年2月19日、午後1時20分。
その日、私(著者)が殺したのは30頭の成犬、7匹の子犬、11匹のねこであった。
その死に顔は、人間をうらんでいるようには見えなかった。
彼らはきっと、最期のその瞬間まで飼い主が迎えに来ると信じて待っていたのだろう。
あの日からずっと、ステンレスの箱の中で死んでいった彼らを思わない日はなかった。
“だれかをきらいになるより、だれかを信じているほうが幸せだよ”
犬たちの声が聞こえる。
この「命」、どうして裏切ることができるのだろうか。

(序文を引用)

この本は愛媛県の動物愛護センターの犬たちの命を救うために、日々奮闘している職員の日常を追ったお話しです。
はじめにページをめくると施設内で殺処分を待つ犬たちの写真がカラーで掲載されています。
これから訪れる死を感じているのか、それとも寂しいからなのか、眠るときは体を寄せてお互いの暖かさを感じ合っているような写真もありました。

この施設には1年間に4千頭もの捨て犬や猫が持ち込まれます。
施設に持ち込まれた全ての犬が殺処分されるわけではなく、ごく一部ですが助けられる命もいるようです。
ですが、それは年間平均約4千頭のうち、わずか百数十頭という数です。
もしもこの施設で預かる捨て犬が年間百頭まで減らせることができれば、持ち込まれた全ての犬たちを助けることができるのかもしれませんが、4千頭もの持ち込まれた犬たちを全て助けるというのは難しいようです。

犬たちは、野良のところを捕獲されたり、または飼い主が直接施設に持ち込む場合もあります。
飼い主が犬を捨てる理由は様々で、主な理由は「飽きた」「引越し先で犬が飼えない」「ほえてうるさい」「すぐにかみつく」「言うことを聞かない」「飼い主が亡くなったから」だそうです。

思うのですが、言うことを聞かないのは飼い主がきちんとしつけていないからではないでしょうか?
人間の赤ちゃんも、この社会で生きていくために、しつけをしますよね。
おまるを使ってトイレの場所や、やり方を伝えています。
少し大きくなって、友だちを物でなぐったりしたら、それはいけないことだと教えます。

犬も同じではないでしょうか。生まれつき何でもできる子はいません。
飼い主が責任を持って教えなければ何をしでかすかわからない子に育ってしまいます。
犬が言うことを聞かないのは、きっと何が正しいかわかるまで教えてもらえなかったためだと思います。

本の中でもセンターに遊びにきた子ども達に職員の人がこう諭しています。
「犬は、飼い主で変わる。ええ犬になるんも、アホな犬になるんも、飼い主しだいじゃけん」
「ええな、この世の中には、アホな犬も、アホな子どももおらんけん」

ほえてかみつくような犬に育つのも、かみつかず、ほえない犬に育てるのも全ては飼い主しだいということです。
それなのに、「ほえてうるさい」「すぐにかみつく」という理由であっさりと捨ててしまいます。
犬にとって、この社会では、捨てられることと死ぬことは同じ意味を持ちます。

この本でも、実際に飼い主が施設に捨てに来るエピソードが載っていました。
家族と思っていた飼い主に置いていかれた犬たちは、その家族の姿が見えなくなるまで大声で、何回も、何回もほえつづけます。
それはまるで、“行かないで…!行かないないで…”と懸命に、訴えているようです。

置いていかれても、心のどこかで家族を待ち続ける…。
それは、飼い主に捨てられた全ての犬たちの想いです。
最後の、最期のその時まで、人に飼われた犬はその飼い主が迎えに来るのを信じて待っています。

実際、1度は捨てた飼い主が思い改め、戻って引き取りに来ることもあるそうです。
その時の、自分の家族の姿を見かけた犬は、自分を捨てた人を恨むこともせず、跳ぶように喜び、ちぎれんばかりにしっぽを振り、全身をふるわせて喜びを表します。
ただ、中には捨てた犬を処分される前に会いにきて、一緒にいた記念にと写真をとってそのまま帰ってしまった家族もいました。

これから殺される家族を前に写真を取って笑顔で別れる。
…その時の犬はどんな気持ちでしょうか…。
記念撮影だけして手を振りながら去っていった、もう二度と戻ってこない家族に向かい、その犬は力いっぱいほえ続けていました…。
“行かないで…!戻ってきて…!待ってるから…!”
犬にとって飼い主は家族。ですが、人にとって犬を家族の一員と思いながら一緒にいる人はどれほどいるのでしょうか…。

本の中にこのような言葉があります。
一見平和そうに見えるこの社会で、一見ごく普通に見える親子が犯している罪の重さを、どれだけの人が知っているのだろう。
犬は飼い主を選べない。
人知れず、こうやってだれからも必要とされず処分されていく犬の命…。

また、こういった施設は税金によって運営されています。
「命を殺すために使う税金がなくなる日を、われわれの手で、われわれのできることから目指そうやないか」

この本には、どうしたら捨て犬が減るのか、飼い主の必須条件、また、どうして年間百数十頭しか助けられないのか、殺処分されるまでの犬たちの様子などが写真と一緒に記されています。
難しい漢字は使われていなく、カナも振ってあり、子どもにもわかりやすく書かれています。

犬を飼いたいと思ったら、ちょっと待ってみてください。あなたは本当に犬を飼う事ができるのでしょうか。
「飼いたい」と「飼える」は似ているようで全く違う意味を持ちます。
この本は、捨て犬の状況をあるがままに書かれています。
「飼う」とはどういうことなのか、まずそれを知ってから飼うことを決めてください。
不幸な犬をこれ以上増やさないためにも…。

木野 実