・丹田が忘れられた理由
・細胞が活性するしくみ
昔より「頭寒足熱」という体を守るための知恵があります。
足元はよく温め、頭はスッキリと涼しく保つ。
体内の血流が良い一方で、頭はクールで冷静に考えたり判断する事が出来ます。
もし頭が熱をもったらボーっとして脳も上手く働きません。
その証拠に熱を出した時やお風呂から上がりたての時は、頭の回転が鈍くなります。
これと同じことが感情にも言えます。
「頭に血が上る」というようにカッとなると冷静さを失ってしまいます。
キレて暴力をふるう事件が増え、日本人の体が変わり果ててしまいました。
では、一体どうすれば良いでしょうか?
もともと日本人は、自身の体と感情をコントロールする名人でした。
ブレない体や精神を作る土壌が出来上がっていました。
教育には呼吸が取り入れられていました。
剣術、武道に日本舞踊は丹田に力を入れて技術を磨き、江戸時代の寺子屋で教えられていた素読では、丹田から声を発していました。
そして薪を割る、重いものを持つなど日常の動作も丹田の力を使っていました。
体が強いだけではなく、怒りや悲しみなどの感情を腹に収める能力も高かった。
それは感情を溜め込むという意味ではなく、自分なりに消化していくものでした。
江戸時代に日本を訪れたベルツは、日本人の生活様式などについて多くの記録を残しています。
その記録によれば、火事が起きても誰もわめき散らすことはなく、火の勢いに耐えながら黙々と水を汲んで消火活動にあたる日本人の姿を見て、日本人の体や精神を律する力に大変驚いたそうです。
感情を自分の中で消化して、冷静に行動する。
現代人とは感情の取り扱い方が全く違っているのです。
その要因は色々あると思いますが。食事や呼吸(体の状態)が大きく影響していることは間違いありません。
しかし、明治に入り欧米の学校授業制度が導入されると、これらはほとんど行われなくなりました。
本は黙読するようになり、腹から声を発する場が無くなっていきました。
腹に意識をおかない、力が入らなくなってしまった体。
声が出にくいばかりか体の軸がぶれやすく、感情のコントロールもしにくくなります。
呼吸の観点から見ても怒りが頭に上りやすく、キレる状態になりやすいのです。
外部からのストレスもあると思いますが、それによって受けた怒りなどの感情を収めきれず、間違った形で他者へ向かっていってしまいます。
深い呼吸をするとたくさんの酸素が体に入り、細胞を活性させます。
すると代謝が上がり、体内の老廃物が外に出される。体内のサイクルが良くなります。
今回は呼吸によって細胞がどう変化するのか、そして細胞を活性させるための方法についてお話いたします。
細胞が活性するとエネルギーが多く生産され、消化や代謝、運動など体のあらゆる活動に使われます。
細胞の中にはエネルギーを作り出す装置が2種類あります。
それが酸素からエネルギーを作り出すミトコンドリア系エンジンと食べ物のブドウ糖からエネルギーを作り出す解糖系エンジンです。
大人になるまでの成長期は解糖系エンジンがメインで働きます。
しかし一度に作るエネルギーが少ないため、すぐにエネルギー不足になってしまいます。
それを助けるのがミトコンドリア系エンジンです。
解糖系の19倍も多くエネルギーを作り出すのでとても効率的です。
解糖系は酸素が無くてもエネルギーを作るので全速力で走ったり、瞬発力を生かす運動の時に働きます。
しかし、年齢と共にミトコンドリア系エンジンがメインになっていきます。
健康で長生きするには、ミトコンドリアを活性させることが大事なのです。
まず、細胞が活性するには細胞に酸素を多く届ける事が不可欠です。
先にも書きましたが、深い呼吸をすると酸素がたくさん取り込まれて細胞に届けられます。
するとミトコンドリアが活性してエネルギーをたくさん作り、ミトコンドリア自体の量も増えていきます。
つまり呼吸の仕方次第で体が変わるのです。
また、食事を改善によってもミトコンドリアが活性します。
現代は1日3食が当たり前になってしまいました。
満腹の時は呼吸が浅くなりがちで体温も下がり、ミトコンドリアはあまり働きません。
子どもの頃や青年期は解糖系エンジンがよく働きますが、中高年になるとミトコンドリア系エンジン中心へと移行していきます。
そのため、特に中高年の世代が1日3食という食生活は明らかに食べ過ぎなのです。
まず1日2食にして空腹の時間を作りましょう。ミトコンドリアは空腹時に活性します。
日本人は弥生時代には1日1食、元禄時代に1日2食になり、戦後しばらくして1日3食になりました。
1日3食は食品メーカーや医療業界を経済的に潤しますが、自身の体には毒でしかありません。
1日に3回食べないと体に力が入らないのではなく、食べ過ぎで体に負担がかかり力が入らなくなっているのです。
そして、健康な人に共通する習慣と言えば、ウォーキングではないでしょうか。
老若男女が無理なく続けられるウォーキングは、細胞活性の観点から見ても非常に適した健康法です。
体の筋肉の7割は足にありますので、スクワットもお勧めです。
一方、上半身を鍛えるハードな筋トレ、瞬発力を中心に使う運動をする時は解糖系エンジンが働きます。
若いうちはそれだけでも支障はありませんが、年齢と共にミトコンドリア系エンジンへと移行するため有酸素運動を取り入れると、細胞が活性します。
ウォーキングは心理的にも前向きになり、体への負担も少ないので長期間に渡って続けやすいのも良いところです。
いかがでしょうか。
長寿の人や実年齢よりも若い人達はこれらを習慣にしていますね。
もし暴飲暴食をして体を怠けさせる生活を続けていると、ミトコンドリアが弱ってしまいます。
すると体温低下に伴って免疫力も激減するので、がんや糖尿病、脳卒中、うつ病など様々な病気にかかりやすくなります。
毎日の食事が大切なのはもちろんですが、まず生命として酸素を必要としています。
体内にきれいな酸素で満たすかどうかで体調も氣持ちも変わってきます。
日本人が凄いのは丹田呼吸に目をつけたところです。
ただ酸素をたくさん入れれば良いというレベルからさらに上の精神を高める行為として呼吸を大切にし、文化や日常の動作に組み込んで代々継承してきました。
ミトコンドリアの活性は細胞から体全体が活性し、さらに家族、地域社会、民族の活性まで繋がっていきます。
しかし、戦後しばらくして食事が欧米化し、呼吸も欧米によって奪われました。
発酵文化が進み、味噌や醤油など発酵食品を大切にしていた日本人は腸で食べていました。
添加物だらけのものを美味しいと言って食べているのは、頭で食べているからです。
丹田を鍛えていたから腹が座り、忍耐力や律する力が磨かれたのでしょう。
胸式呼吸になると感情が頭に上りやすくなるので、コントロールが難しい。
これに苦しめられている現代人は多いのではないでしょうか。
頭だけで色々と判断するようになると、体が本当に求めているものからは遠ざかってしまいます。
玄米菜食の食生活を続けると腸の判断力が上がり、健康な状態を体で分かるようになります。
呼吸もまた強い体や精神を支えになります。
山本 和佳