美しい自然・謎めいた遺跡・趣のある建造物―
世界遺産として認められるために、税金を使ってせっせと手を加える国。
保存のため?観光地化のため?忘れられた犠牲と地元の声・・・
世界遺産とは、1972年に成立した「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)に基づいて、世界遺産に登録された遺跡・景観・自然など、普遍的な価値をもつものを指します。
世界遺産を管理するユネスコは、国際連合の機関である国際連合教育科学文化機関であり、(正式名称のUnited Nations Educational, Scientific and Cultural Organizationの頭文字をとり、UNESCO)教育・科学・文化の発展と推進を目指しています。
また、ユネスコの目的は「国際連合憲章が世界の諸人民に対して人種・性・言語又は宗教の差別なく確認している正義・法の支配・人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を助長するために教育・科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することによって、平和及び安全に貢献すること」と記されています。
文化遺産:建造物や遺跡
自然遺産:地形や生物、景観
複合遺産:文化と自然の両方を兼ね備えるもの
危機遺産:後世に残すことが難しくなっているもの
世界遺産には4種の分類がありますが、世界的に価値の高い無形の文化財として、無形遺産もあります。
それぞれの登録において4~6項目ほどの条件があり、遺産候補地をユネスコ世界遺産委員会へ申請後、現地調査を終え最終審議を通れば世界遺産と認定される仕組みになっています。
登録後は、6年ごとに保全状況などを報告しますが、場合によっては再審査や登録取り消しにもなります。
世界遺産は、2007年度までに世界の141国と851件が登録されており、中国の万里の長城やスペインのサグラダファミリアなど様々ですが、数で言うと文化遺産が圧倒的に占めています。
では、日本の世界遺産はどれほどあるのでしょうか?
有名な兵庫県の姫路城や瀬戸内海に浮かぶ厳島神社などの文化遺産が12項目、誰もが一度はこの目で見てみたいであろう北海道の知床、青森県ら秋田県に広がる白神山地などの自然遺産が4項目で、合わせて16項目が認定されています。
また、世界遺産登録へ向けて12の地域が申請をしています。
その中から小笠原諸島を取り上げて、世界遺産登録への背景に触れてみます。
2011年6月その生態系や地形・地質などが認められ、小笠原諸島は自然遺産として世界遺産に認められました。
自然遺産の登録にあたり、こんな項目があります。
<生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには、科学上、または、保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種が存在するものを含む。 >
小笠原諸島は、一度も陸につながったことのない島々のため、小笠原に生息する動植物は島の固有種ばかりです。
さらに、国際自然保護連合が出す絶滅の危機にさらされている動植物のレッドリスト(2008年)のうち、57種が小笠原に生息していることもあり、生物の生存に大きく関わっています。
このようなことも、世界遺産登録に一役買ったのでしょう。
一方で、その固有種と希少種を狙う外来種が登録にあたり大きな問題となり、世界遺産登録のための推薦書には「希少種の生育状況把握、希少種を被圧する外来種の駆除」と、方針が書かれていました。
その駆除は私たちからの税金で現在も着々と進み、外来種は次々と姿を消しています。
例えば、ノヤギ・ノブタ・ウシガエルは食用として1800年代に持ち込まれたとされますが、現在は根絶した島が多くあります。
ノネコはネズミ退治やペットとして持ち込まれましたが、現在駆除ではなく捕獲後本土へ輸送され、ペットとして新たな生活を送るシステムが実践されています。
また、小笠原自然保護センターの注意事項では、島に上陸する際に荷物に生物が紛れていないか、靴底に泥がついていないか、植物のタネがついていないかなどの確認を促しています。
しかし、世界遺産として知られ観光客が増えたことから、100%の安全は得られません。外来種が多くみられる島は、必ず人の出入りがみられているからです。
この外来種の駆除に関して、住民からは「そもそも港や道路開発で本来の島固有の植物が伐採された」との声もあがっていたようです。
世界遺産に推薦することをうけ、小笠原に住む人々の考えも様々でした。
小笠原に長く住む地元住民は、「いまさら世界遺産?こんないじくる前の方がよっぽど綺麗だった、今までだってたくさんのものをなくしてきた」
関西から移住してきた住民は、「賛成だけど、保護のために海にも山にも入れなくなったら島の面白みがない」
ただ、観光業が盛んな小笠原の認知度が上がるというのは、かなりの利益につながるとも言え、自然とどのように共存しているかも知ってほしいという意見もありました。
世界をみてみると、中国雲南省にある麗江の旧市街は世界遺産登録以来、年間観光客数が10年間で170万人から460万人に増え、カンボジアのアンコールワットも、1万人に満たなかった年間観光客数が世界遺産登録をきっかけに100万人以上に激増しています。
このことで、保護するはずの景観や遺跡の破壊につながったり、観光地として整備が進み交通の便が良くなったり、様々です。
これらのことから、世界遺産は一概に素晴らしいものとは言えなさそうですね・・・。
ただ、日本の自然遺産として登録された地では、自ら好んで来たわけではない外来生物が数多く犠牲になっていることを忘れてしまってはいけません。
そして観光客として訪れるとき、あなた自身が加害者にならぬよう、配慮してください。
これ以上、必要とされていた命が、必要とされない命にならないように・・・
阿久津 桜