東京から台湾の小さな村にやって来た少年とその母親。
日本語を話す祖父と過ごした、美しくも切ないひと夏の物語。
モントリオール映画祭出品。
今回は最近DVDリリースされた作品からご紹介します。

監督: 川口浩史
キャスト: 尾野真千子、原田賢人、大前喬一、ホン・リウ、メイ・ファン、チャン・ハン、ワン・ファン、ブライアン・チャン、テン・ボーレン
脚本: 川口浩史、ホアン・シーミン
撮影: リー・ピンビン
美術: ホアン・ウェンイン
音楽: 川井郁子
製作国: 2009年日本映画
配給: ビターズ・エンド
芥川龍之介の同名短編小説をベースに、舞台を大正時代の伊豆から現代の台湾に移し、心に深い痛手を負った少年の成長と、家族の再生を描きだす。
主演は「殯の森」の尾野真千子。
監督はこれがデビュー作となる新鋭・川口浩史監督で、篠田正浩監督(『スパイ・ゾルゲ』)五十嵐匠監督(『みすゞ』)らの助監督を務めてきた実力派。
共演に台湾の名優ホン・リウ、ブライアン・チャンほか。
東京で暮らす八歳の小学生・敦は、父親の急死という突然の悲劇に見舞われる。
悲しみが癒える間もなく彼は、弟と母親と共に遺灰を届けるために、父の生まれ故郷の台湾中南部の小村へ。そこには日本語を話す優しい祖父がおり、父からもらった大切な写真に写るトロッコを一緒に探してくれた。
雄大な台湾の自然のもと、それぞれが失いかけていた家族の絆を取り戻していく。
「静かで落ち着いた佳作」、これがこの映画の印象です。
これは、ひとえに台湾の美しくもどこか懐かしい風景がおおいに影響を与えていると思います。
昭和30~40年代の日本にはまだたくさん残っていた緑の濃い自然が、そこにはありました。
その濃い緑を背景に、「少年の成長」と「家族の絆」を主なテーマとして作品は語られてゆきます。
父親を失った不安、母親の愛情への不安、異国にいる不安、アイディンティティーへの不安などなど八歳の少年が抱えるにはかなり荷の重い問題ばかりですが、美しい自然と優しいお年寄りたち(彼らはみな日本語が上手です)に囲まれてひとつひとつ乗り越えてゆきます。
そして息子を見守る母親も、その姿に励まされ自分の中にある不安に立ち向かう勇気をもらうのでした。
もちろんすべてが解決するわけではありません。
敦少年が祖父に尋ねた「ボクは日本人なの?それとも台湾人?」という質問の答えなどもそのひとつです。
作品中では答えを得られません(注)が、祖父の日本人に対する想いを知るなどして、敦少年は問題に立ち向かう強さを身につける事ができたと思います。
それは答えよりも大切な事ではないでしょうか。
原作があるといっても舞台を現代台湾に置き換え映画化したというより、原作からインスパイアされた作品、または原作にオマージュを捧げた作品になっています。
それは前述した通りテーマの深さ、広さに現れています。原作は「トロッコに乗って、帰ってくるまで」という「少年期の冒険」がテーマです。
そしてそこで主人公が目にしたもの感じたことを、余計な説明無しに淡々と描いています。
本作にも「トロッコに乗って、帰ってくるまで」が描かれていますが、さらに「日本から台湾に行き、帰ってくるまで」を描くという二重構造になっています。
このことにより「トロッコの旅」の前と後での少年の成長ぶりがよく判ります。
もともとはトロッコの撮影のためだけに訪れた台湾で出合った緑したたる自然や、美しい日本語で日本に対するさまざまな思いを語ってくれる老人たちとの交流によって、監督は脚本を大きく変更したそうです。
その成果はぜひご覧になって確かめてください。
主演の尾野真千子さんは独身ながら、夫に先立たれし二人の子どもを残された若い母親を見事に演じていました。
最近はテレビなどでもよく見かけますが、故原田芳雄さんと共演したNHKドラマ「火の魚」の演技も素晴らしいものでした。
注目の女優さんだと思います。
敦少年役の男の子もなかなかきかん坊な雰囲気がよくでていてはまり役だと感じました。
家族の絆をだけでなく人の繋がりの大切さを考えさせられる素敵な映画です。
夏休みに親子で観るのも良いと思います。
(小田切聖之介)
注)
正しくは祖父は「お前がおとなになってから自分で決めなさい」と答えていますが、この時の敦少年はまったく納得できない表情でした。
原作に興味のある方はこちらでお読みいただけます。
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