戦争の犠牲者

お国のためと、出征された動物。
そして、戦争のため、人のため犠牲になった多くの動物達。
その真実の物語とは…

第二次世界大戦時、男性は皆、国から出征するよう命令が下りました。
兵に志願したら訓練後、戦場に送り出されます。
同じように、農業用に飼われていた馬や、軍用犬として育てられた犬が戦場へ送り出されていったことはご存知でしょうか。

農村で飼われていた馬は軍馬として、軍用犬と、軍人と共に戦地に赴きました。
ですが、戦後、外地から戻ってきた船の中には、一匹の犬の姿も見つけられなかったといわれています。

人が起こした戦争に他の動物達が巻き込まれます。
戦争によって象などの動物園の動物たちも命を奪われました。
空襲などで檻が壊され、動物達が逃げ出したら危険だという理由と、食料が不足していたため、動物達に餌を回すどころではなかったからです。
動物園の動物達だけでなく、野犬なども、狂犬病などを蔓延させないためや、動物園の動物達と同じような理由から野犬狩りが積極的に行われていました。

これだけでもすでに多くの動物達が犠牲になっていますが、他にも戦争で犠牲になった犬や猫がたくさんいたのです。
戦争時はお国のためと、自分のものを差し出す「献納」または「供出(きょうしゅつ)」ということが行われていました。
供出するのは物だけではなく、飼っている動物もその対象とされていました。
ある日突然、飼っている犬や猫を供出せよと命令が下ります。
地域ごとに、飼い主が犬や猫を決められた場所へ連れて行き、集められます。
当時、動物を飼っていた人は名前まで登録し、税金を払っていました。
そのため、飼われた犬や猫の名前入りの名簿が存在し、連れて行ったか、隠しているかどうか、ひと目でわかるようになっていました。
連れて行かなければ非国民扱いされるため、必ず連れて行かなければならなかったのです。

「犬もお国の役に立てましょう」

そうして供出させられた犬や猫は一箇所に集められました。
どうして犬が集められたかというと、理由は3つありました。
動物園と同じ理由の、空襲時、暴れ出したら危険なため。
狂犬病をなくすため。
そして、寒い戦地におもむく兵隊のための毛皮を用意するためです。
供出令の背後には、毛皮を得るための「撲殺令」が隠されていたのです。

犬たちは主に川の近くに集められました。
撲殺した後、剥いだ皮を洗うためです。
撲殺現場を目撃してしまった飼い主は、家族の一員だった犬や猫の最後の悲鳴を決して忘れることはできないと語っています。

血のにおいのする場所へ連れてこられた犬や猫は必死に抵抗します。
ものすごい速さで逃げ出す犬もいます。
殺されまいと、木の上に猫は上り、太い幹が揺れるほど木の上には猫達が集まり体を寄せ合い、細い枝のあちこちにしがみつく猫もいます。

けれど、連れてこられた犬や猫は再び捕まり、ひきずられて、押さえつけられ、振り上げられた丸太が力いっぱい下ろされると同時に、なんとも言えない悲鳴を上げ、絶命します。
毛皮は腐らないよう塩漬けにされ、運ばれていき、戦場での防寒具として兵士に着せられます。
人が始めた戦争は、動物達まで簡単に巻き込み、犠牲になった動物はある地域では一万匹を超えるほどでした。

戦時中に起こったことを語る体験者は今少なくなってきています。
戦争は人だけでなく、数多くの動物達も犠牲にしたことを私たちは先人達から教わり、次に世代にも伝え続ける必要があります。
このような悲劇や戦争の残酷さを、決して忘れてしまうことがないように。
また、戦争の被害者は人だけではなかったということも忘れず、語り継いでいきたいです。

木野 実