犬のオークション

ペットショップにいる仔犬たち。
彼らはどこからやってきたのか…。
そして、かわいい姿に隠された彼らの本当の心とは…

今ではどこにでも見かけるペットショップでは、毎日小さくてかわいい仔犬たちが姿を見せています。
道行く人はその愛くるしい姿に目を奪われ、子ども達は「かわいい~」とガラス向こうからじっと見つめる姿もよく目にする光景です。
ペットショップにはいつでもかわいい子犬たちがいます。

この、「いつでも」…というところに違和感を覚えた方はいらっしゃいますか。
仔犬はいつかは成人し、大人の犬になります。
けれど、ペットショップで大人の犬を見かけることは、ほとんどありません。
いつでも仔犬しかいない…これはとても奇妙なことです。
大人になる前に、全ての犬が買われていくのでしょうか。
けれど、ペットショップで取引される金額は決して安いものではありません。
毎回仔犬がペットショップにやってくるたびに売り切れるわけでもありません。
(そういえば、仔犬はどうやってペットショップにやってくるのでしょうか?)

今回は、ペットショップにいる仔犬はどこからくるのか、ペットビジネスの不透明な裏側をお伝えしたいと思います。

どの業界にも、人道的に仕事を行う人と、利益優先で商売をする人とに別れます。
それは、ペットビジネスも例外ではありません。
利益優先のペットショップにとって、仔犬たちは心癒されるかわいい小動物ではありません。
こういった商売は、商品を仕入れ、お客様に売り、収入を得ることで成り立っています。
つまり彼らはお店の大切な収入源。
店の運営費や、自分達の給料を賄うために必要な商品と見られています。

ペットショップなどの小売業者は、商品である犬をブリーダーと呼ばれる犬の生産業者から手に入れます。
または、各ブリーダーがそれぞれ持ち込んだ仔犬をオークションにかけ、オークション会場で手に入れる方法もあります。
(他にも様々な方法で商品となる動物を仕入れているかもしれませんが、犬の流通システムの実態は未だつかみ切れていません。)

多くの小売業者は犬の市、オークションから仔犬を仕入れています。

オークションへは、ブリーダーという生産者が仔犬をダンボールにつめ、会場に運び込みます。

オークションを開く業者はブリーダー(生産者)や、ペットショップ(小売業者)などから集める入会金、年会費、仲介手数料などで収益を上げています。
(年間売上高は数億、または数十億にもなるといわれています。)

オークションの図式は、ブリーダーが仔犬を持ち込み、ペットショップが競りに出された子犬たちを落札するという流れになっています。

ブリーダーが産まれた仔犬たちをダンボールなどに詰め、会場に運びますが、中には運送途中に怪我や骨折をしたりなどの事故も起きます。
そうなった場合、その仔犬は欠陥商品として扱われ、欠陥商品は売れないため競りには出されないまま、多くはその短い生涯を閉じることになります。
ここでは完全に「生き物」ではなく「物」(あるいはそれ以下)の扱いを受ける仔犬たち。売れなければ、彼らに生きる道は残されていません。

そして、無事に到着した仔犬たちは、競りにかけられ、早ければ数十秒、数万円で落札されていきます…。
ここで扱われているのは間違いなく「命」であり、「物」ではありません。
ですが、オークション会場にいる人の目に映るのは、「生き物」ではなくお金という価値を付ける「商品」なのです。

彼らは、何も分からず親から無理やり引き離され、知らない土地、知らない場所に運ばれ、大勢の人間の前にさらされ、何も分からないまま自分の命に値段を付けられています。
そして落札の瞬間、その子は同じダンボールで運ばれてきた兄弟たちとも離れ離れになる運命を決定付けられます。

次から次へとダンボールに詰められた仔犬が届き、流れ作業のように次の仔犬、また次の仔犬と落札されていきます。
(ここで、売れ残った犬たちには商品としての価値がないと判断された犬たちです。
売れ残り続けた彼らの行く末は…良識ある業者なら里親探し、そうでない場合は…殺処分という死が待ち受けています。)

こうして、商品として買われた子犬たちは家族と離れ離れにさせられ、それぞれのペットショップに連れて行かれます。

普段ペットショップにいる、見る人の心を癒してくれるかわいい子犬たちの中には、幼くして親から離れさせられ、オークション会場で大勢の人の前にさらされ、品定めされ、一緒にいた唯一の家族である兄弟たちとも離れ離れにさせられた過去を持っているのです。
まだ幼い彼らの心にはすでに取り返しのつかない傷がついています。

生後1ヵ月足らずで親元や兄弟から離された仔犬は、本来家族から学ぶ人間を含む社会への愛情を学べず、そのため社会化が不適切で成犬したときに問題行動を起こす傾向があることがわかっています。
せっかく買われても、そうした問題行動を起こす犬に飼い主は手を焼き、捨て犬問題に繋がりやすくなるとされています。

人間が身勝手にも幼いころに親兄弟から引き離した結果、罪の無い犬たちが問題行動を起こすからと、飼い主にも見捨てられ、殺処分される運命をたどる…。
こうしたことが、許されるのでしょうか?
何のために彼らは生まれてきたのでしょうか?
私たちがかわいい、かわいいと言っているペットショップの犬たちにはそういった事情を抱えている仔犬たちが多くいます。

また、生後間もない彼らを親から引き離す原因を作っているのは何もブリーダーやショップの方たちばかりではありません。
他ならぬ、犬を買う人たち自身も、その一端を担っています。
それはなぜかというと、「仔犬」を求めるお客が多くいるからです。
「小さければ小さいほどいい、かわいいから。」
そうした消費者意識が、生産者や小売業者を動かしています。
残酷な現実を作っているのは、見た目のかわいさにすべての価値をおいて、犬の事情など考えない消費者でもあるのです。

欧米では、8週齢(生後56日)未満の仔犬の販売を法律で禁止しています。
また、こうした幼齢犬問題の第一人者でもある、米ペンシルベニア大学獣医学部のジェームズ・サーペル教授は自身の著書に、
「初期の社会化期は生後3~12週の間形成される。」
「6週齢で仔犬を生まれた環境から引き離した場合、その仔犬は精神的外傷を受ける」と書かれています。
やはり、あまりに幼くして親兄弟と離れさせられてしまうと、様々な障害を心に抱えてしまうのでしょう。

日本ではこういった法的な規制がまだないため、ペットショップでは心に傷を負い、将来問題行動を起こしやすいと言われる生後間もない仔犬たちが多く売られています。

あなたが目にしている仔犬たちも、もしかしたらそんな心に傷を追った仔犬かもしれません。

日本のペットショップは残念ながらただのビジネスとして考えられている部分が多くあります。
お金儲けのためだけに捨てられる命、傷つく動物達を一匹でも多く救うために、まずはペットショップの中の仔犬たちの真実を知ってください。
そして、幼すぎる仔犬を買うのをやめてください。
それが、むやみに処分される動物を減らすために私たちが一番簡単にできる方法なのです。

木野 実