おすすめ映画「わらの犬」

アメリカでは先ごろリメイク版が公開された1971年の名作「わらの犬」。
西部劇作家として有名な巨匠サム・ペキンパーの現代劇。
はたしてペキンパー流西部劇仕込の反逆精神は…。

原題:Straw Dogs
製作年:1971年
製作国:アメリカ
配給:20世紀フォックス
監督:サム・ペキンパー
出演:
ダスティン・ホフマン
スーザン・ジョージ

現代。アメリカの若い宇宙数学者デビッド(ダスティン・ホフマン)は、自らの平和主義の信念に従い、暴力に満ちたアメリカの現体制に反発し、エミー(スーザン・ジョージ)と共にイギリスに渡った。
コーンウォール州の片田舎にある農家に住み、何ものにも煩わされることなく数学の研究に専念し、書物にしようと考えていたが…。

『天と地は無常であり、無数の生き物をわらの犬として扱う。賢人は無情であり、人間たちをわらの犬として扱う』という老子の『語録』から引用したタイトルには、超人間的存在である天から見れば、人間の行動は護身のために焼くわらの犬のようにちっぽけな存在にすぎないという意味があるそうです。

アメリカの喧騒から逃れるためにイギリスの片田舎に引っ越してきた夫婦ですが、はからずも否定していた暴力に直面することになります。
特に夫であるデビッドはステレオタイプの学者で暴力はおろか体力にはまったく自信がなく、人付き合いもイマイチで平和主義者と言うのも、なにか言い訳めいて聞こえます。
そんな彼が最後には人間の暴力性にとらわれていく、というストーリーにはエセ平和主義へのペキンパー流の痛烈な批判が込められているのではないでしょうか。
原作はM・ウィリアムズの『トレンチャー農場の包囲 /The Siege Of Trencher’s Farm』ですが、暴力描写やストーリーの上で、より妥協せずに脚本化し、『わらの犬』と改題されました。

この作品のテーマである「内なる暴力性」については、主演ダスティン・ホフマンのインタビューの答えが、この映画の言わんとするところを如実に語っていると思います。
「僕の興味を引いたのは、架空のこととはいえ、その内容が平和主義者を取り扱っているという点だった。
彼らは自分の中に潜む暴力の芽や感情を自覚していないのだが、実は、それは社会生活において彼らが忌み嫌う感情とまったく変わらないのだ。
そのタイプの人間のいい例は、戦争反対や暴力反対を唱えながら、ボクシングやフットボール試合の観戦に行き、大声を上げている連中だ。
そうした連中は自分の中の矛盾に気づいていないのだ。」

この作品は暴力を肯定するものではありませんが、しかし目を逸らせていればそれで無かったことにできるほど現実は甘くないのだとペンキンパー監督は言いたかったのではないでしょうか。
同時期のバイオレンスシーンで有名な作品に「時計仕掛けのオレンジ」がありますが、当初は「時計仕掛け~」の評価の方が格段に高く、本作は批評家には不評でした。
しかし批評家チャールズ・バーは『わらの犬、時計仕掛けのオレンジ、そして批評家たち』という題名の長い論文で、『わらの犬』を批判し、『時計仕掛けのオレンジ』を絶賛する批評家たちを、「愚かだ」とバッサリ切り捨てている通り、現在では異色の名作として名を馳せています。
確かに暴力シーンは過激ですので、お子さんにはご遠慮していただくとしても、ペキンパー監督の反逆精神の真骨頂とも言うべきこの作品を、ぜひオリジナルでご覧になることをお勧めします。
残念ながらDVDは現在絶版のようですが、レンタル各社には在庫がありますので、ぜひ。

予告編(ただし字幕無し)