今回は、この秋発売された新作DVD作品のなかからご紹介します。
現代フランス映画界において欠かすことのできない女優ジャンヌ・パリバールは、また歌手としても活動しています。その素顔を、「コロッサル・ユース」などで知られるポルトガルの俊英ペドロ・コスタが追ったドキュメンタリーが本作です。
ペドロ・コスタとジャンヌ・バリバール、ふたつの魂が響き合う奇跡のコラボレーションをぜひご覧ください。

2009年/ポルトガル・フランス/103分/35mm/モノクロ/1:1.33/ステレオ
監督:ペドロ・コスタ 撮影:ペドロ・コスタ
編集:パトリシア・サラマーゴ
録音:フィリップ・モレル、オリヴィエ・ブラン、ヴァスコ・ペドロソ
音楽:ピエール・アルフェリ、ロドルフ・ビュルジェ、ジャック・オッフェンバック
製作:アベル・リベイロ・チャベス
出演:ジャンヌ・バリバール、ロドルフ・ビュルジェ、エルヴェ・ルース、アルノー・ディテリアン、ジョエル・テゥー
ジャンヌ・バリバールは「そして僕は恋をする」(1996年)、「恋ごころ」(2001年)、「サガン -悲しみよ こんにちは-」(2008年)でセザール賞助演女優賞にノミネートされたこともある、若手から巨匠まで現代フランスにおける映画作家たちのミューズとして知られる人気実力ともに備えるフランス人女優です。
また2003年に「Paramour」を発表して以来、歌手としても知られるバリバールの音楽活動の軌跡を「ヴァンダの部屋」、「コロッサル・ユース」で世界中の気鋭の映画作家たちやアーティストたちを刺激し続け、注目を集めるポルトガルの鬼才ペドロ・コスタが、その独自の視点で映画にしました。
ライブリハーサルやアルバムレコーディング、ロックコンサートや歌のレッスン、曲は『ジョニー・ギター』からオッフェンバックの『ペリコール』まで、そして舞台をフランスのサンマリー・オーミーン村の屋根裏部屋から東京のカフェへと移しながら、5年にわたり撮影された本作は、ひとりの女優の持つ様々な表情を、モノクロームの美しく力強い映像で見事に捉え映し出します。


ペドロ・コスタ監督について、簡単に触れておきます。
ペドロ・コスタ(Pedro Costa、1959年 – )は、ポルトガル・リスボン出身の映画監督です。リスボン大学、国立映画大学で学び、助監督を経て、最初の長編作品「血」で、すでに「ポルトガル映画の最も美しい映画の一本」との評価を得ました。その後「溶岩の家」、「骨」と2本のフィルム作品を撮りましたが、制作に対するシステム、姿勢の転換からビデオによる作品を撮るようになります。こうして生まれた「ヴァンダの部屋」は、フォンタイーニャスというリスボン郊外の貧しい地区に暮らす、かつての植民地カーボ・ヴェルデ諸島の移民たちに焦点を当てた作品で、山形やロカルノを初めとする国際映画祭で多くの受賞をはたしました。
ペドロ・コスタ作品の映像の美しさは、(ハイビジョンが当たり前の現在から見るとまったく時代遅れのようですが)たかだか数十万円のDVカメラで撮影された「ヴァンダの部屋」、「コロッサル・ユース」でさえ、独特の深い陰影に息を呑むことがあります。
今回はもはやアンティークなものになりつつある35mmのモノクローム・フィルムで撮影されたことにより、一層際立っているかのようです。その一端は予告ムービーでも充分にご覧いただけると思われます。
タイトルの「何も変えてはならない(NE CHANGE RIEN)」は、ひとつの歌のタイトルで、この映画の中で、ジャンヌ・バリバール自身がコンサートで歌っている歌です。と同時に「ゴダールの映画史」二部作からの引用でもあります。ただしゴダール自身はこの言葉を、ロベール・ブレッソンの「シネマトグラフ覚書」から引用しているそうです。正確には「全てが異なるために、何も変えてはならない」だそうですが、禅問答のようでよくわかりません。件の書籍は私も以前から読みたいと思っていましたのでいずれご紹介する機会があるかもしれません。作品の中ではゴダール自ら録音した彼の声を聞く事ができます。
一般的には音楽ドキュメンタリーと言うべき本作ですが、監督ペドロ・コスタは幾度となく次のように語っています。
「ドキュメンタリーとフィクションを分けて考えることには意味がない。映画はまだ有史以前ともいえる。『朝起きてトイレに行くこと』についてゴダールさえ撮っていない。いかに撮るか。映画にはあらゆるヴァリエーションが存在するはずだ。」
そして本作では「たんにアーティストの作業についてのドキュメンタリーというだけでない、その少し先に到達しうる映画を作りたい」とも語っています。
完成した本作を見たバリバール本人は、「私のポートレート以上」とのコメントを寄せているそうです。
あとは、実際に皆さんご自身でお確かめください。
(小田切 聖之介)