噛む犬はいらない

飼い主が犬を捨てる理由の一つに、「噛む」という理由があります。
今回の動物の声では、「なぜ犬は噛むのか」ということを知っていただき、「噛む」という理由で捨てられる犬が減っていくよう、呼びかけたいと思います。

「小さい頃はかわいかったのに…大きくなって噛まれると痛いし、吠えるし、もう手に負えない…処分するしか…。」
(そしてその後また新しい仔犬を買ってきたりします。)

捨てられる犬が多い背景には、こういったペットをおもちゃか何かとしか考えていない飼い主が多くいることが原因です。
人間として今まで生きてきて、喧嘩もしない、愚痴も、文句も言ったことのない人はいるでしょうか。
私たちは誕生したその瞬間から大声で泣き喚いて産まれてきます。
その後も、お腹が空いたり、おしりが変な感じがしたり、不安になったときなど、すぐに泣き声をあげます。これは、一種の意思表示です。
言葉がまだ使えないため、言葉の変わりに一生懸命自分の感情をうったえています。
そのうちに大きくなり、言葉も理解するようになり、言葉で自分の意思表示を行うようになっていきます。言葉で通じないときは、何か態度で表現しようとします。ふてくされたり、泣いたり、たたいたり、暴れたり…。

では、犬はどうでしょうか。
小さい頃は人間も犬もかわいいです。
それを、ある程度感情を理解できる年齢になっても悪いことは悪いと教えないで育てれば、その子はどうしたときに相手は怒り、悲しみ、嫌がるのか、十分に経験できない(わからない)まま育ってしまうことになります。

人間ではこのようなことがあり、あまりに我が侭に育ってしまうと、他人の気持ちがわからず、さらにコミュニケーション能力が不足していると社会不適応者と呼ばれてしまいます。
犬の場合は「犬社会不適応」と呼べます。

人間は家族などのまわりにいる大人から他人との接し方について学びます。
これは、学問のように頭で理解するというより、体感でいつのまにか覚えているということが多いです。

犬社会も同じです。
母犬や兄弟犬がいて、一緒に大きくなっていく過程で自分以外の犬との接し方やマナーのようなものを覚えていきます。
そこで学ぶことの中には、噛み方も含まれます。

犬の噛み方にはある程度ルールがあります。
噛む前段階として、歯を見せ威嚇したり、急に噛み付くこともせず、相手に飛びかかってもまず宙を噛んだりと…。
このような手順を踏んで犬は噛むという行為にたいてい移るのですが、犬社会不適応の犬はこうしたことを学べなかったため、噛み付く前の前兆が発見しにくい場合があります。

それも、幼いうちに家族と引き離すペットビジネスの構図が原因です。
小さい方がかわいいから売れる、こうした消費者の動向を販売者は的確に感じ取り、仔犬は小さければ小さいほどいい、よく売れる!といったビジネスモデルが出来上がっていきます。
こうしたことが、噛み付きやすい、犬社会不適応の犬を育ててしまう大きな要因でもあります。

また、それだけではありません。
ストレスを過分に感じたときも噛むという行為をする場合があります。
噛むということは、相手に対する攻撃性の現われです。
誰だって感情的になったときは攻撃性が増します。

例えば、ずっと外に連れて行ってもらえず、身体を思いっきり動かしたいのに動かせない。
外の空気に触れたいのに、部屋に閉じ込められっぱなし…。
賢く、活動的な動物ほど、こういったことにストレスを感じてしまいます。
特に狩が得意とされるテリア、ブルドック等闘犬として有能な犬種、コリー等の牧羊犬種など、こうした犬達は活発に動き、働いてきた歴史があります。ですが、狩や遊牧を目的としない現代社会の檻の中では、彼らのような賢い犬達は、窮屈に感じ、思いっきり身体を動かせないことでストレスが溜まっていってしまいます。
働くことに生きがいを感じる彼らは、大人しくのうのうと座っているだけのような生き方では満足できないのです。
賢い犬ほど、よく訓練してあげる必要があります。
訓練することで、精神的にも安定してきます。

このように、犬種によってもストレスの溜まりやすさ(ストレスがたまるから噛み付く)が違ってきます。
犬は姿かたちが違うだけでそんなに変わりは無いと思ってしまうと、犬にとっても、その家族にとっても不幸な結果に繋がってしまうかもしれません。

また、遺伝的に「攻撃的な犬から産まれた子は攻撃性が強く現れやすい」ということもわかっています。
攻撃的な犬とは、攻撃性が強く、神経が敏感な犬が多いです。
これらは、高確率で遺伝するといわれています。
高い攻撃性を持つ犬は、狩や番犬などでは良いかもしれませんが、家庭用の犬としては不向きといえます。

また、それぞれの技を競い合うドッグショーなどの犬はこうした攻撃的な要因が高い犬が多いようです。
ですが、賢く強い犬としてもてはやされ、繁殖犬に利用されることも多々あります。
チャンピオン犬の子は高く売れるからと、お金儲けのために安易に繁殖させてしまう繁殖業者も問題です。
そうした場合、親犬の攻撃的な部分が遺伝し、子どもも攻撃的な要素を備えた子が増えていきます。

競技に優秀さを見せる犬が、すべて競技犬として扱われるわけではありません。
「ドッグショーでチャンピオンになった犬の子」というプレミアがつき、何も知らない飼い主が喜んで買ってしまい、家用の犬として扱うと、攻撃的な部分を受け継いだ犬はたちまち欲求不満になり、すぐ噛む犬というレッテルを張られてしまいやすくなります。
本当は、噛む犬が悪いわけではないのに…。

そして「噛む」という理由で捨てられる犬が増えていきます。
噛むのには理由があります。
それは、恐怖だったり、遺伝により性格が攻撃的なので普通より多く躾る必要があったり、そもそも家用に相応しい犬ではなかったりと…。

ペットショップで購入するとき、わざわざそんなことまで説明してくれる良心的な定員さんはとても少ないです。
やはり、皆「商売」「金儲け」という考えを強く持っている業者が多いのが現状です。

何事もそうですが、これからは消費者がより賢くなる必要があります。
売り手が売ることしか考えず、何も話してくれなかったとしても、買い手がしっかり知識を持っていれば不幸な結末を迎えることはなくなります。

犬や他のペットとして扱われている動物は、全て生き物です。
人間と同じように、種族も違ければ気質も性格も千差万別、十人十色です。

飼うということは、その子の一生に責任を持つということです。
よく泣く子だからといって赤ちゃんを捨てたりしませんよね?
すぐに殴る子だからといって、怒りはしても殺すことはしませんよね?

犬も同じです。すぐに噛み付くからといって、保健所に連れ込むようなことはしないで下さい。
噛む子には必ず噛み付いてしまう理由があります。
飼い主は、そこに気付いてあげてください。

少しでも犬の性質について学ばれ、不幸な犬や飼い主が減っていくことを願っています。

木野 実