「ベルリン・天使の詩」のヴィム・ヴェンダース監督が、サム・シェパードのシナリオを得て、カンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝きました。
ロード・ムービーと言えば必ず名前が挙がる名作です。
荒涼としたテキサスの風景にライ・クーダーのスチール・ギターが乾いた哀愁を漂よわせ、美しくも孤独で、じんわりと心に染み込んでくる映画です。

制作年 1984
原題 Paris,Texas
時間 146分
フイルム 35mm
監督 ヴィム・ヴェンダース
脚本 サム・シェパード/L.M.キット・カーソン
音楽 ライ・クーダー
出演 ハリー・ディーン・スタントン(トラヴィス)/ナスターシャ・キンスキー(ジェーン)/
ハンター・カーソン(ハンター)/ジョン・ルーリー(バーの男)
「パリ、テキサス」とはテキサス州パリの意味です。移民の国アメリカには、移民達がそれぞれの故郷の名前をそのまま付けた街がたくさんあります。ただし、この街もそうなのかどうかはわかりません。映画には街の写真しか出てきませんので。
その写真を持っていたのは、ポスターに写っている赤い帽子の男です。
映画はテキサスの原野を彼が一心不乱に歩いるところからはじまります。
やがてガソリンスタンドにたどり着くや倒れ込んでしまいます。男の名前はトラヴィス、4年前から失踪していたことが、ほどなくわかります。
倒れたトラヴィスを病院に弟のウォルトが迎えに来ます。ウォルトはトラヴィスの息子ハンターを妻とともにロサンゼルスで面倒見ています。一度は逃げ出すトラヴィスですが、弟とロサンゼルスに向かいます。
息子と再会したトラヴィス。そしてハンターの母親ジェーンの消息がわかった時、彼は…。
物語としてのこの作品は、ある男の再生を描いています。彼によって崩壊した家族、それは結局もとには戻りませんでしたが、彼も彼の家族も一歩前進することはできました。
物語のこうしたテーマはとてもアメリカ的です。
監督自身も「(この作品では)私は最後のアメリカ映画を撮ったつもりだ」と言っています。
しかしヴィム・ヴェンダースは、ドイツで生まれ育ち、パリで映画に携わるきっかけを得た生粋のヨーロッパ作家といってよい監督です。
では、この作品のアメリカらしさは脚本のサム・シェパードによるのでしょうか。
映像的にみると、ここで撮られたアメリカは、どこまでも広く乾いて、その風景をロード・ムービーらしく自動車のフレームで次々と切り取って見せてくれます。
この乾いた美しさもまたとてもアメリカ的であると思います。
ところで監督は、「ことの次第」という作品の中で登場人物に次のような会話をさせています。
「映画には物語が必要だ」
「必要ないさ。人物と人物の空間で映画は作られる。」
これは決して脚本を軽視しているという事ではありませんが、監督の本心に違いありません。
この作品でも、はじめはトラヴィスと弟、次ぎはトラヴィスと息子、そしてトラヴィスと元妻のジェーンという二人の関係(空間)が描かれています。
特にトラヴィスとジェーンが再会するシーンは秀逸です。二人はマジックミラー越しであり、お互いの視線が合うことはありません。それでも電話線一本だけで繋がった二人の息詰まるような会話の中、それぞれを深く見つめ合うことになるのです。

しかし、それもほんの一瞬のことです。二人はまた別々の道を行くことになります。
そして淡い色調の乾いた風景が別れを一層際立たせます。ライ・クーダーのスチール・ギターもまた然り。乾いた大地は土埃をあげてそこにあり、青い空は何事もなかったように澄み渡っています。去っていく車の後ろには、ただ街のきらびやかな光があるだけです。
映像が美しいほど、また風景が研ぎ澄まされていくほど、この作品の淡く乾いた色調が、胸に染み入ってきます。
この作品のアメリカらしさは、やはりこの乾いた風景にこそあるのだと思います。
(小田切 聖之介)