・何故鉛筆を刀で削ることを禁止したのか?
・現代の子どもは、○○○に支配されている!
・○○体験が子どもを成長させる。
先週に引き続き、今週も指先の運動と発達について、お話させていただきます。
昔の子どもは、日常の中で器用に指先を使っていました。
様々な道具を使っていましたが、それは物を作り出すための補助的な役割を果たすものでした。
1つの道具で創意工夫しながら多様な物を作ることができるのです。
しかし、一旦生活が便利になると体は甘えてしまい、ますます現代式の道具に頼ってしまいます。
お年寄りの方の手先の器用さに驚いたことはありませんか。
幼い頃に手足をたくさん動かして遊んだ世代の人達は、繊細に手先を動かして裁縫をしたり、
鎌などの刃物を器用に力強く扱っていました。
今は便利な時代になり、手先を細やかに動かして家事や作業をすることが少なくなってしまいました。
便利さを手に入れると楽になったのは確かですが、それに甘えて流されると、
人間本来の力を発揮できず、むしろ大きなマイナスを背負うことになるのです。
例えば鉛筆を削るという1つの作業でも、大きく様変わりしました。
1960年代頃までは、ほとんどの小学生の筆箱の中に「肥後守(ひごのかみ)」が入っていて、
それを使って鉛筆を削っていました。
男の子は日常的に持ち歩き、遊びの中でも刀を巧みに使ったそうです。
しかし、1960年、当時の日本社会党委員長が17歳の少年に刺殺された事件がきっかけとなって、
警察庁が全国の学校教育機関に対して、子どもにナイフを持たせないように指導したのです。
ナイフ自体が危険なものとみなされ、
全国の教育委員会から鉛筆削り器が配布されました。
このことを、雑誌「暮しの手帖」の創設者である花森安治は、「昭和の刀狩り」と呼んだそうです。
生活の目線から、刀を持たなくなることの弊害を既に知っていたのですね。
危ないからと遠ざけたものの、刃物を使った事件は減っていません。
これは、現代人が化学物質や重金属漬けになって、
精神や神経系にダメージを受けた事とも関係があります。
また、刃物を持ったことのない子どもが増え、その危険性の認識が薄れているのも事実です。
実際に刃物を持たせると、刃を指にあててしまう子どもが多く、
小学校6年生でも2~3割いるそうです。
子どものうちに、体を使う遊びや体験を十分にさせてあげる事が重要です。
体を使うだけでは体験出来ないことを、勉強や読書、テレビ視聴によって補っていました。
しかし、多くの子どもは室内にこもってゲームやスマホに時間を費やし、外で遊ぶことはほとんどありません。
文部科学省と国立教育政策研究所が行った
「全国学力・学習状況調査報告書」(平成27年度)によると、次のような結果が報告されています。
(調査対象は小学校6年生と中学校3年生)
平日にテレビやビデオ・DVD視聴に費やす時間について、小学校6年生の約6割が2時間以上と回答しています。
さらに、約2割が4時間以上と答えています。
その上、平日のテレビゲームやスマホの使用時間については、
1時間以上という回答が小学校6年生で約半数、中学校3年生では約6割に達しました。
テレビの視聴時間とゲームやスマホの使用時間を合わせると、
年間1,000時間を越える計算になります。
現在、小学校6年生の1年間の総授業次数は980次数(1単位45分)ですから、
授業の時間を大幅に上回っているのです。
本来、子どもが体を使って遊ぶ時間がテレビやゲーム等に費やされ、
子どもの成長の妨げとなっています。
子どもにとって遊びは生活であり、新しい発見の連続です。
好奇心で様々な遊びをする中で、自主性や物事に取り組む意欲が育ちます。
思考力、判断力、想像力が身につき、動き回るので基礎体力も向上しますね。
お友達と遊ぶことで、協調性や忍耐力が身につきます。
そして、成長とともに下級生の子どもと接するようになり、責任感と優しさを育みます。
また、昔は刀などの道具を使うことにより手先の器用さが身につきました。
手足や体を使った遊びは、この上ない成長の場なのです。
子どもから遊びの自由を奪ってはいけません。能力の芽を摘むのも同じことです。
生まれたばかりの赤ちゃんは、どのようにも成長できる可能性を持っています。
ただ、良いものも悪いものも吸収してしまうので、
両親や周りの大人が正しい判断をする必要があります。ここが本当に重要です。
衣食住、生活態度や振る舞い、考え方など、子どもは大人をよく見ています。
大人になれば、自分の判断で生活を営み、仕事に取り組みます。
そのベースを子どものうちに築く事は大変重要で、その後の人生を左右すると言っても良いでしょう。
手先の器用さを失ったのは、大人も同じです。
生活の中で意識的に手先を使わないと、退化する一方。子どもに教えるどころではなくなります。
私達大人も取り戻す努力をしながら、次の世代に伝えることが求められています。
山本 和佳