小さな命

人間よりとてもちいさな生き物が教えてくれた大切なこと。
本来のあるべき姿をもしかしたら忘れてしまったのかもしれません。
小さな命が教えてくれた事とは…?

ある日の休日、外出しようと家の外に出たときのことでした。
向かいの道路の真ん中で、すずめが歩いていました。
歩くと言っても、すずめなのでぴょんぴょん跳ねているのですが、その跳ね方が何か不自然で、違和感を感じます。

そっと近づいてみると、すずめはパタパタっと羽を広げ飛び立とうとします。
ですが、飛んだのはほんの十数センチ。
相変わらず不自然な跳ね方で、移動しています。

今いる道は、自動車の通りは滅多にないのですが、それでももし自動車が来たらひかれてしまいます。
自動車でなくても、自転車はよく通るので、気づかれなければ引かれてしまうと思うと気になって仕方なく、しばらくどうしようかとすずめを見ていました。

外傷は見当たらないですが、この不自然な動きをみていたらこのすずめが怪我をしていることはわかります。
ちょうど曲がり角に近いところにいたので、もしかしたら急カーブしてきた自転車に引かれたのかもしれません。
骨折しているのか、脳震とうを起こしているのかわかりませんが、人間がいるのに逃げられないでその場に止まっているのだから、かなりの重傷のはずです。
ただ、飛びたてないだけで、ぴょんぴょん跳んでいるので、元気そうに見えました。
きっとそのうちに飛び立つだろうと思い、自転車がきてまた引かれてしまわないようにしばらく見守ることにしました。

人間が近くにいたら気が散るだろうから、遠くから眺めて飛び立つのを待ちます。
さらに、もしかしたら仲間のすずめが来るかもしれないので隠れて待ちます。
他の人から見たら怪しい格好ですが、仕方ありません。このすずめがきちんと飛び立つのを見届けたいですから。

すずめは、飛びたいけど翼が思うように動かない、どうしよう…という感じでオロオロしていましたが、しばらくしてパタッと倒れました。
大急ぎで出て行ったら、またむくっと立ち上がりました。
けれど、自分よりも巨大な生き物が目の前にいるのにすずめはもう逃げようとしません。
きっと、骨折がひどいか、内臓が傷を負っているのだと思いました。
このすずめを今動物病院に連れて行けばまた飛べるようになるかもしれない、という考えが頭を過ぎります。

すずめは、きっと人間が自転車で当ててしまい、大怪我をさせた可能性が高いですから、そうだとしたら同じ人間として申し訳ないと思います。
もう跳ねることもしなくなったすずめは、このままここに置いておいたら近所のネコの遊び道具になるだけです。
出会ってしまった以上、自分がなんとかするしかありません。
自転車を持ってきて、乗り心地良くベットメイキングした前かごにすずめを乗せようとします。

すずめをこんな間近で見るのは初めてです。
自分の体よりも細い足でしっかりと立っています。
どこを骨折しているかわからないので、慎重に運ぼうとしますが、すずめはまた大きく羽ばたいて、そして翼を広げて倒れました。

翼を広げると、体の3倍~4倍も大きくなるすずめの姿を見て、少し罪悪感を感じます。
さっきは、凜として立っていた姿を見せていたのに、今は羽を広げて弱々しい姿になっています。
こんな弱った姿を見るのは、何かいけないことのように感じました。
自分が弱っているところなんて、きっと見られたくないでしょうから。

すずめは、倒れた体を一生懸命に起こそうとしています。
このすずめは、今必死で生きようとしていました。

ですが、すずめの動きはだんだんと小さくなっていきます。
もう、死が近いことをなんとなく悟っていました。

何とか翼を動かしますが、体を起こすほどの力は残っていません。
もう翼も動かなくなっていきます。

一瞬の感覚でした。
その時(あっ…しぬ)と感じた瞬間、すずめの体がビクッと痙攣し、これ以上翼が広がらないくらい思いっきり羽根が伸び、精一杯伸びた後、ゆっくりと羽根が縮まっていき、もとの状態に戻りました。

しばらく、といってもほんの数秒間だったと思いますが、死の瞬間を目の当たりにし、呆然としていました。
目の前で、命がなくなりました。

おそるおそる触ってみると、すずめの体はまだ温かかったです。
動かないだけで、まだ生きているようでした。

さっきまでの羽根を広げた姿とは違い、きれいな丸みのあるすずめ本来の姿に戻っていました。
動物は、死ぬときはきれいな姿で死ぬのかなと思いました。

すずめを看取った後は、埋める場所を探します。
ですが、埋める場所を探すのは思ったよりも大変でした。

道は全てコンクリートで覆われていて、土がないのです。
これほど人工物に囲まれて、土がない場所で生きていたことに改めて違和感を感じました。

このすずめは、たまたま見つけて、死んでしまっても埋めてあげることができますが、他のすずめがもし死んでしまったとして、土の上で息絶えたらなんとなく土に埋めてもらえそうな気がしますが、もしアスファルトの上で死んでいたら、間違いなくゴミと一緒に焼却処分行きです。

なんて動物にやさしくない町の造りなんでしょうか。
今まで必死に生きてきた者に対して、死に場所すら与えてあげられないのです。

結局、このすずめは道路脇に植えられていた花壇に穴を深く掘って埋めることにしました。
もう一度生きているかどうかの確認のため、体を触ってみると、さっきよりも温かみがなくなっていました。
完全に冷たくなったのを見届けた後、土の中に埋めました。

皆さんの周りには、土がどれほどあるでしょうか。
土があるということは、野生動物にとっての死に場所があるということを、このすずめのおかけで知ることができました。
そういえば、いつからか私たちは土に還らなくなりましたね。死んだら土ではなく石の中に入ります。
せめて、動物たちは最期は土に還してあげたいです。土があるから、自然の循環が成り立っています。

土を返す。安易にアスファルトなどで覆わない。これだけでも、動物にとっても住みやすい環境になります。
動物が住みやすければ、いづれ人にとっても住みやすい良い環境になれると思います。

木野 実