・便利な生活がもたらした恩恵と弊害
・〇の連携が滞ると・・・
・頭でっかちから解放する
日々寒暖差がありながらも、春が近づいています。
便利な生活に慣れてしまうと、季節を肌で感じるような感覚が薄れがちです。
極端に言えば、旬の野菜や果物をほとんど食べない食生活をしていると、季節に対応する体を作れないし、移り変わる季節への感受性も無くなっていくのではないでしょうか。
それがストレスの最大原因ではないにせよ、日本人の心身にかかるストレスは過剰になっています。
体は悲鳴をあげているのに、それに氣づいていない人が意外に多いのです。
これは他の動物には見られず、脳が発達している人間だから起きうる現象だと言えます。
通常、体は外部からの刺激に対して上手く対応するよう働いています。
・氣温の変化の影響を受けないよう体温を一定に保つ
・体の緊張を和らげようとあくびをする
・汗や尿を出して体内の水分量を調整する
ほかにも挙げればきりがありませんが、このように寝ている時も意識していない時も常に行われる生命体を維持しようとする働きを総称してホメオスタシスと呼びます。
ホメオスタシスは脳の奥にある視床下部や脳幹がコントロールしています。
これらの部位は「原始的な脳」とも呼ばれ、人間よりはるか昔に存在していたご先祖様にあたる動物も、両生類や爬虫類にも備わっています。
原始的な脳は生命を維持する上で最も重要な働きを担っています。
一方、人間の脳の一番外側を覆っている大脳皮質は別名「新しい脳」と呼ばれています。
理性的な判断や論理的な思考、言葉を操る働きなどを担当しています。
人間は他の動物よりもこの部分が発達しているので言葉を話し、社会を作り文明を築きました。
例えば、冷たい外氣に触れて体が寒く感じたとします。
「寒い」は原始的な脳からのサインで、それを新しい脳がキャッチして
上着を羽織るとか暖かい場所へ移動するといった理性的判断がなされます。
このように原始的な脳が発したサインを新しい脳がキャッチするという連携が出来ているおかげで、人間社会は目覚ましい発展を遂げ、車や飛行機など交通手段が発達し、便利な世の中になりました。
しかし、矛盾するようですが便利な生活に浸ることで、人間は原始的な脳と新しい脳のバランスを崩しやすくなり、それが原因で心身に不調が出る人が増えてしまいました。
新しい脳の働きに偏り過ぎて原始的な脳の働きが抑えられすぎると、体からの声が聞こえなくなってしまいます。
例えばストレスを受けると緊張したり、嫌な氣分になったり体は様々なサインを出します。
そのような変化に氣づいて休憩したり何らかの対処をしようとしていれば、いきなり病氣にはなりません。
しかし、体からのサインが聞こえない、または聞こえていても無視していると、やがて体を壊してしまいます。
人間には原始的な脳と新しい脳のどちらも必要です。
体にかかる負担を和らげつつ、互いの脳が連携するにはどうすれば良いのでしょうか。
まず、心を穏やかに安定させるにはセロトニンの力が必要です。
セロトニンは脳幹から脳全体に放出され、脳内全般の神経の働きを抑えて脳の活動を静かにします。
例えば、興奮状態を抑えて冷静になる時や仕事モードからリラックスモードに切り替える時、セロトニンが働いています。
セロトニンがしっかり分泌されている人は心の状態がゆったりと落ち着き、細かい事に一喜一憂せず、どっしり構えていられます。
しかし、セロトニンにも弱点があります。
突発的なストレスに対しては心の安定を保とうと働きますが、慢性化したストレスにさらされ続けると、徐々に働きが弱くなってしまうのです。
セロトニンの働きが弱くなると物事にうろたえたり、動揺、不安、落ち込み、イライラなど心が揺れ動きやすくなります。
そして、些細な事に過敏に反応するようになります。
ありもしない事をあれこれと心配したり、同じことを頭の中で何度もぐるぐる考えてしまったりするのは、セロトニンの働きが弱くなっているサインです。
この問題点は、もともとは些細な事でも自分の頭の中で勝手に問題をどんどん大きくしてしまう事です。これはうつ病の人によく見られる症状です。
例えうつ病でなくても、現代人はセロトニンが不足しがちなので注意が必要です。
パソコンやスマホを長時間操作して同じ姿勢でいる事や、買い物でどちらにしようかと迷って思考が停止して判断できないといった事は特に脳が疲れている時に陥りやすく、セロトニンが不足しています。
通常は、新しい脳が原始的な脳の働きを抑制していますが、セロトニンの凄いところは新しい脳をコントロールする点にあり、現代人の抱える心の病や、それによって起きる体の不調を改善する可能性を持っているのです。
例えば、先に挙げたような些細な事で心配したり、堂々巡りの思考することをセロトニンは抑える事が出来るのです。
セロトニンの働きは、何気ない普段のある行動にも左右されています。
それが呼吸です。
先にお話ししましたホメオスタシスとも呼吸は関係が深く、寝ている時や仕事をしている時など無意識に呼吸をしている時は、原始的な脳である脳幹がコントロールしています。
その範囲は単に息を吸ったり吐いたりするだけではなく、血液中の二酸化炭素の濃度を保ちながら、肺の周りの筋肉の動きや呼吸のペースや深さまでも調整し、連動しています。
人間には言葉を話す能力があり、もちろん話している時も呼吸をしています。
言葉を話す行為は新しい脳である大脳皮質がコントロールしていて、面白い事に話している時の呼吸も大脳皮質にコントロールされています。
つまり、呼吸は原始的な脳と新しい脳の両方のコントロール下に置かれていて、巧みに使い分けられているのです。
セロトニンは精神を安定させ、その働きは呼吸に大きく影響を受けています。
つまり呼吸をコントロールすれば、セロトニンを活性させる事が出来るのです。
深呼吸を何度か繰り返すとセロトニンの分泌が盛んになり、ゆったりとした氣持ちになります。
先人はこの事をよく知っていてヨガや瞑想などに呼吸を取り入れ、体の健康維持だけにとどまらず、精神を高めるに至るまで呼吸を鍛えていました。
パソコンやスマホの操作に夢中になっている時、呼吸は浅くなっています。
それでも息苦しく感じないのは、新しい脳が目の前の作業に集中しようと働いているためです。
しかし、浅い呼吸が当たり前になってしまうと、体は緊張して氣持ちも不安定になりやすいのです。
パソコンやスマホは生活に欠かせない便利なツールですが、時々手を休めて深呼吸をしましょう。
意識的に心身をリラックスさせてください。
生活が便利になった事で時間を効率的に使えたり、別の事に集中できるなど恩恵は多いのですが、もともと持っていた能力を衰えさせる側面もあります。
便利さばかりに氣を取られていると、人間本来の働きが邪魔されることがあります。
両方の角度から見て、デメリットを出来るだけカバーする工夫をしてみましょう。
山本 和佳